2009年5月アーカイブ

クセについて2

「よく使い込まれたペン先は、刀で大根を切ったような形をしています。」とお話しましたが、
実際にどのような形なのか説明させて頂きます。

まずは製品の工場出荷状態のペン先をご覧下さい。

M800_M.jpg

これはペリカンのM800で字の太さはBです。
最近のペリカンは太さB以上でしか「角研ぎ」に仕上げていないようですので
これを比較対象としました。

イリジウム(先端の銀色の部分)が横に縞が入っているのは、
手作業で研ぎ出して調整しているものと思われます。

ちなみに機械で仕上げたものは縦縞が入ります。
弊社の五角研ぎにもここまで荒くはないですが、手作業ですので軽く横縞が入ります。

次によく使い込まれたペン先をご覧下さい。

kuse01.jpg

丸かった先端がスパッと切れていて「大根を切ったような」という表現が
おわかり頂けると思います。

その腹側の画です。

kuse02.jpg

これはペリカンのM600のペン先です。弊社から10年前にお買い上げ頂いた方のペン先です。
(使い手によってクセは異なります。)

この画を見ても角研ぎ特有の「紙を面で捉える」ということがおわかり頂けるのではないか
と思います。

その方が最近ご来店の際に、「調子はいかがですか?」とお持ちになったペン先の見たところ
よく使い込まれていたので記録のために写真を撮らせて頂きました。
最近そのような使い手少ないです。

その方は十年日記を使われているとのことで、日記には毎日その万年筆を使っていたそうです。
日記が丸十年を迎え、この度新しい十年日記をお求めになるためにご来店頂いた方のものです。

その方にとって十年前のペリカンの万年筆は高価でありそのこともあって日々大切に
使われていたそうです。

ペン先を見てもこの方が、非常に丁寧に大切に万年筆を使われていたことがわかります。
そのペリカンのイリジウムは硬いですから、その方とあと20年はお付き合いできるでしょう。

このように本当に万年筆を使って頂けるお客様とお付き合いできることは職人冥利に尽きます。

ラジオ

明日(28日)、地元AMラジオ局で弊社が取り上げられるそうです。昨日お話がありました。

YBSラジオ 28日(木) AM10:30からの15分位のコーナーだそうです。

スケジュールの関係で来週になるかも知れないとのことですが、
お手隙でしたらどうぞお聞き下さい。

クセについて

人のペンを持つ持ち方(角度や左右への寝かせ方)、いわゆるクセは十人十色です。

私が長年万年筆に携わっていえるのは、人は誰ひとりとして同じクセを持つ人はいません。
また、その人の生まれつきともいえるクセは生涯変わることが決してありません。

だからペンが使う人の持ち方(クセ)を要求するなどということはあってはいけないのです。

ましてや五角研ぎにおいてはペンが紙を平面で捉えることを目的にしていますから、
その人の書きクセを見極めるのは調整をする上で非常に重要なことになります。

よく使い込まれたペン先は、刀で大根を切ったような形をしています。
このような場合、誰かがそのペンを借りて使い元の場所に戻したとしても、
「勝手に誰かがオレのペンを使ったな」とわかるものです。

五角研ぎについて2

五角研ぎの形状についてご説明いたします。

「五角研ぎ」というのはペン先を研ぐ際に五角形をイメージするところから名付けました。
その正面図は以下のようなものです。

・正面図

gokaku01.jpg


ペン先の研磨した辺の延長線上では五角形を結びます。
(ペン先切り割りの内側は砥石にてわずかに角を丸め、紙の引っかかりを無くしています)


次に側面図です。

・側面図

gokaku02.jpg

このように研ぐことで縦線はやや太く、横線はやや細くなります。
(斜線部は傾斜をあらわします。)


・側面図2
gokaku03.jpg
使う人のクセに合わせ前後の角度を調整します。標準は60度です。
(図は少し角度が急になっています。)

・正面図2
gokaku04.jpg
B・B'の面を左右の傾斜に合わせながら、手のクセに合わせます。
そしてエッジを軽く取ります。最後にAの切り割りを面取りします。

非常に大まかな説明ですが、これが「五角研ぎ」の形状です。

五角研ぎについて

弊社で調整する万年筆は「五角研ぎ」というオリジナルの調整を施しています。
今回はその特徴について説明いたします。その特徴について簡単に説明すると、

・縦線がやや太く横線がやや細くなり、漢字・平仮名などの日本字がきれいに
 書くことができる

というものであります。「きれい」という意味はその人にとって気持ちのいいという
意味でして、他人からみてもきれい、という「上手な」ということとは違います。
つまり、自分の好きな字が書けるということであります。

昔の日本の万年筆は殆どが「角研ぎ」でありましてそのような研ぎ方が常識でしたので、
そのような名前をつける必要がありませんでした。
私がそのような研ぎ方にあえて名称をつけたのは現在主流の「丸研ぎ」が台頭しはじめて
からです。

先代から引き継いだその角研ぎの技術に私なりの解釈を加え「五角研ぎ」と名付けました。

五角研ぎの技術的な話はまた後日説明させて頂きますが、職人の立場からいうと
皆さんが書いたときに好きな字がかけるか、気持ちよく書けるかが問題なのです。

(私が後述する話も含めて)いろいろな情報には決して惑わされないで下さい。
皆さんが万年筆を持って書いたその時の素直な自分の感覚を信じて下さい。

万年筆を選ぶ際の重要なポイント2

2つ目はペンの書き味です。

万年筆製造家として金ペンの目指す書き味は、喩えていうと、三菱鉛筆のハイユニや
トンボ鉛筆のモノ100のような上質なB,2Bの鉛筆で字を書いたときの書き味です。

先代は「非常に細かい粉を指で擦ったような書き味」と喩えていましたが、同じことです。
滑りすぎず、紙の引っかかりがなく、これに金ペン特有の柔らかさを加えた感じが理想と
するところです。

また、インクがドバドバでたり、書き始めにインクが出なかったり、書かれた文字をみて
インクの濃さにムラがあるようなもの、書いたときにガリガリ、もしくはシャーシャーと
音がするようなものは適切な調整がなされていないものです。ご注意下さい。

万年筆を選ぶ際にわかりやすいひとつの目安として、水性ボールペンよりも書き味や
バランスが悪い製品はいずれ使わなくなってしまいますので避けた方がいいでしょう

万年筆でご来店のお客様へ

お店からのお知らせです。

ここのところお休みを利用してわざわざ県外よりお越し頂くお客様が多くいらっしゃいます。
あらためてのご案内ですが、営業時間は次の通りです。

平日 9:00~19:00
土曜・祝日 10:00~19:00
定休日 日曜日

職人は基本的にいつも店頭におりますが、何かの都合で出かけることもございます。
ですので、万年筆でご用のお客様はあらかじめお電話で「万年筆のことでちょっと・・・」などと
お問い合せ頂けると助かります。(電話 055-233-3000 まで)
お客様第一ですので、出かけていたとしてもなるべく都合を切り上げ戻ってくるようにいたします。

 修理、ペン先型直しなどの場合はお預かりすることもありますが、ペン先研ぎ直し、調整などは
だいたい10分もあれば済みます。料金は次の通りです。

ペン先調整 500円~
ペン先研ぎ直し 1,000円~
ペン先型直し 2,000円~
万年筆修理 別途お見積

現在、「やまなしの名工」受賞記念として簡単な調整は無料サービスしております。
毎日がどこかのペンクリニックみたいなものですので、ぜひお気軽にご来店下さい。

 

お知らせ

本日、地元テレビ局UTYの取材を受けました。
番組名は「UTYニュースの星」で5月14日(木) 11日(月)18:05からの
放送予定だそうです。

地元の身近にあるものを再発見するという趣旨の5分くらいのコーナーだそうです。
そこで実用筆記具としての万年筆が本来持つ良さについてお話をさせて頂きました。

取材は苦手なのですが、取材にいらしたディレクターの方が以前からの当店のお客様であり、
非常に仕事熱心な方だとお見受けしたので取材を受けることにしました。

文具を仕事の道具として非常にこだわっておられました。そのような方に道具を提供するのは
専門店としての責務であるとも思っています。そして、その人がより快適に仕事ができると思えばこの上ないのです。文具店なんていい意味でそんなもんだと思っています。

幸いなことにその方は万年筆をあまり使用しないとのことでしたので全く偏見がありませんでした。
万年筆に対して敷居が高いとか一部の蒐集家のものだとかという世間の万年筆に対するイメージを変えたいと思って取材を受けました。

2時間30分くらいの取材時間だったでしょうか。その間ご来店頂いたお客様には
いろいろご不便をおかけいたしました。

ご興味のある方は5月14日 11日の放送をご覧下さい。

(先程テレビ局より連絡がありまして、5月11日に訂正させて頂きます。失礼いたしました。)

万年筆を選ぶ際の重要なポイント

大まかにいうと2つあります。それはバランスと書き味です。

今回はバランスについて解説致します。

1つ目のバランスですが、これは他の筆記具にも言えることでもあります。

万年筆のキャップを外し、後ろに差して書く状態で持ち、目を閉じてみて下さい。
持った瞬間にピタッと持てて(持ち直さないで)自分の指の一部であるかのように
感じたらその万年筆はあなたの手にあったバランスのペンです。

ペンを掌の上にのせた状態では重たいのに、書く状態で持つとなぜか軽く感じる、
というものあなたにバランスが合っていることの証です。

決して価格が高いものがいいペンではないのです。
えてして価格が高いペンはキャップなどに華美な装飾を施しがちです。
そのような場合、せっかくのバランスが崩れてしまっているのがほとんどです。

売り手の「限定品」などという言葉に惑わされず、いろいろ試し書きをして自分に
あったペンを探してみて下さい。

万年筆職人として

弊社は先代が大正5年に万年筆メーカーとして創業致しました。
地方の小さいメーカーであるが故に設計、試作、卸、小売、修理、調整という
全ての工程に携わりました。かれこれ60年間、世界中の万年筆、筆記具を修理分解し、
ペン先をお客様一人一人の手のクセに合わせて調整をして参りました。

万年筆が日本に輸入され始めてから、全盛の時代を経てボールペンの時代へ
万年筆製造から小売、文具店への転向など様々な経験をしました。

文具、万年筆に関してこれからも皆さまのお役に立てればと思い拙い文章ではありますが、
記して行きたいと思います。

筆記具、文具全般に関してご質問をお受けしております。
お気軽にお問い合せ下さい。

よろしくお願い致します。