2010年3月アーカイブ

パーフェクトサービス(2)

今回のイベントを通じて、お客様から沢山の修理品が持ち込まれました。

その多くはお客様が以前に使っていたものです。現在は使っていないが広告を知って、
久しぶりに引っぱりだしてみたがどうなんだろうか?というものです。

実は30~40年前の万年筆は実用性重視でしっかり作られているものが多いので、
基本的な調整をするだけで大変喜んで頂くことができました。

これをきっかけにボールペン、シャーペンの修理なども持ち込まれましたが、
皆さん昔のものを意外と捨てずにお持ちなのだとあらためて思いました。

万年筆をより身近に心地よく使って頂きたいと思っていましたので、それであれば
何も新しい万年筆を買わなくても、誰でも家のどこかを探せば万年筆の一本くらいは
出てくるのではないかと思いこのようなイベントを再び行いました。

万年筆は何もヒゲを蓄え、コーヒー片手にパイプを燻らせながら蘊蓄を語る人だけの
ものではありません。普通の人が普通に使って心地よくなければウソです。

県外からのお客様もいらして頂き、反響が意外と大きくよかったと思いますが、その反面
このようなお客様の要望に応える技術を持った販売店が少なくなってしまっているかと
思うと残念な少し気持ちもします。

パーフェクトサービス(1)

43年前、当店で「パーフェクトサービス」というイベントを行いました。

それは「どんな万年筆でも修理致します。修理できなかった場合、パーカー75を
無料進呈します。」というものです。
ちなみにこのパーカー75という万年筆は当時の価格で12,600円のものです。

PFS.jpg
当時の木製パネル看板

その時は先代と私で対応しました。実際にいろいろな種類の修理が持ち込まれましたが、
結果として、パーカー75がお客様の手に渡ることは一本もありませんでした。


そしてこの度、甲府市中心商店街の「一店逸品」事業に参加させて頂きまして、
この「パーフェクトサービス」を43年ぶりのイベントとして行いました。

http://genkinamachi-kofu.com/itten-ippin2010/buraza.pdf

今回は修理できなかった場合に、パイロット社のヘリテイジ91(10,500円)
という万年筆を無料進呈と謳わせて頂きました。

「パーフェクトサービス」イベントは今月の22日で終了させて頂きましたが、その間
毎日のように万年筆の修理が持ち込まれました。現在は修理に追われる日々でして、
指先のインクの汚れが落ちないままで日々を過ごすのは久しぶりでした。

とても感慨深いものがあります。

浸透印(2)

あまり知られていないかも知れませんが山梨県は六郷に代表されるように印鑑の生産が
盛んで印材、印鑑業者は全国に販売をしていました。

その販売ルートにのせて「浸透印」を販売したところ非常に好評を得ました。

朱肉無しで連続して押せるということと、現在のゴムでできたものとは異なり、柘で
作られていますから実印登録も出来ることが受け入れられ、特に朝鮮、満州では飛ぶよう
に売れたそうです。

しかし、戦争が激化し、職人が出征したり材料の入手が困難になったことで次第に
生産は尻すぼみとなってしまいました。以下当時の製品の写真です。


shintoin_01.jpg
万年筆屋でしたので万年筆をモチーフにしています。

shintoin_02.jpg
印面のまわりの赤い部分は水分による木の膨張を押さえるための樹脂です。

shintoin_03.jpg
印面を彫っていない状態です。


ちなみに当初は浸透印の製法を秘密にしていましたが、昭和24年に「浸透印」の
製品名で特許登録しています。

現在当店にて実物を展示中です。現在は製造・販売をしていませんが、当時の裏話
などご興味のある方は是非ご来店下さい。

浸透印(1)

現在、シャチハタのネーム9などに代表される浸透印が一般普及していますが、実は
その原型となるものを当社で開発していました。


・開発の背景

万年筆の初期において、不完全なインキ止式万年筆をインキ漏れしない、書いていて
インキ切れしない、又書いていてインキがボタ落ちしないようにするため当社でも
日々研究を重ねていました。

そこで毛細管現象に着目し、ペン芯に縦溝、横溝のバランスをとることでインキの出を
コントロールすることを考えていました。

実験としてエボナイトの棒に極微細な縦溝を切り、水に差して置くと1~2mは水が
上がってくるのです。そして細いエボナイト棒に縦溝を沢山切ると全部の溝に均等に
水が上がってきました。これが浸透印の着想の原点です。

・製造方法

万年筆のペン先は主に14金で出来ていますが、その先端はイリジウムという金属が
取り付けられています。このイリジウムを取り付ける際には電気溶接をしていました。

簡単にいうと、ペン先とイリジウムにそれぞれプラスとマイナスの電極を与えスパーク
させて溶接する方法です。

そこで、この電気溶接のための機械を利用して、印材として優れている柘の木を輪切り
にして取り付け、回転させながら連続して放電すると木の導管に沿って微細な穴が無数
空くのです。


このようにして出来たのが当社の「浸透印」です。

営業時間のご案内

諸事情によりまして、3月10日(水)は営業時間を変更いたします。

営業時間のご案内
3月10日(水)
9:00~18:30
通常より1時間早く終了いたします。

よろしくお願い致します。

西洋の万年筆

万年筆がまだ完成されていない時代、日本のメーカーにとっては西洋の製品はお手本でした。
当社でも新製品を開発する際に、舶来万年筆を取り寄せ分解し構造を研究したものです。

長年数多くの製品に触れていると以下のように感じます。

 ドイツの万年筆は、機能重視で機能の上にデザインを載せる。
 英仏米の万年筆は、デザインの中に機能を押し込む。

近年の製品は当てはまらないこともありますが、各社の代表的な製品を見るとそのように
思います。

有名なメーカーでいうと、ドイツ製の万年筆とはモンブラン、ペリカンです。
英米仏製というと、パーカー、クロス、ウォーターマンなどです。

数多くの製品に触れ研究していると、その製作者の意図を感じることがありまして、
そのように思うようになった次第です。

具体的な理由はまたの機会に個々の製品についてその特徴を示しながら解説してゆきたい
と思います。

「技術は安売りしない」

先代の道治は職人気質の厳しい人で、言うことを聞かない子供の頭をエボナイト棒で
ひっぱたくような人でした。(あれは相当痛いものです)

50年位前、市内のある学校の先生が万年筆を注文しに工場にやってきて、「ここの
軸はもうちょっと細く、こっちは太く」というように、轆轤を挽くそばであれやこれや
と細かい注文をつけていきました。

先代もお客様に喜んでもらうためにいろいろと苦労したようです。何回かの打ち合わせ、
調整を経て、双方満足する製品になり、やっとお渡しする段階になりました。

すると、その方が「もっと値段を安く」と今度は価格交渉をしてきたのです。
腹に据えかねた先代は作った万年筆をその場で真っ二つに折って言いました。

「技術は安売りしない。お前さんに売るペンはもうないから帰ってくれ。」

その方はひどく憤慨され、結局お帰りになりました。それを見ていた私も呆気に
とられましたし、「何もせっかく作ったものを」と思いました。

今考えると、先代としては技術に自負もあったでしょうし、お客様の難しい注文に
も応え、自分でもやっとのことで納得のいく製品ができたのだと思います。しかし、
値段を小切られたことが余程自分の技術にケチをつけられたと思ったのでしょう。

お客様が憤慨されたのも無理はないと思います。しかし、その方は以前と変わらず
工場に顔を出され、何事もなかったかのようにそれ以降もご贔屓にして頂きました。

当時のよもやま話です。

万年筆と通信販売

ここのところ、インターネットなどの通信販売で万年筆を買ったお客様が調子が
悪いので診て欲しいという依頼が多くあります。

基本的には売ったお店がその商品をお客様の納得のいくまで面倒をみるべきだと
思いますが、万年筆の良さをより多くの人に知って頂きたいという思いから他店で
購入したものあっても修理・調整を一応受け付けています。

しかし、中には酷い販売店もあるようです。インターネットなどで2~3割引きで
熱心に売る割に、その後お客様からの製品の不具合の訴えに対しては手のひらを
返したように冷たい対応をしている販売店もあるようです。

恐らく、売った後のことは考えてもいないでしょうし、必要な調整技術も持ち合わ
せていないのではないでしょうか。

万年筆はお客様の手に合わせる調整が必要な筆記具ですから、対面販売が基本と
なります。インターネット上での通信販売では調整技術の面は省かれていますし、
見た目は良くても持ったときの製品のバランスは試しようがありません。

そもそも万年筆のようなアナログな筆記具はインターネットなどの通信販売に
向かない商品なのかも知れません。